隆鼻術について

● 隆鼻材料の変遷

明治の頃にも美容整形外科はあったのですが、その頃は象牙を削ったものが、使われていたそうです。第二次世界大戦後は、オルガノーゲン等の注射は別としてシリコン(当時はシリコーンと伸ばして呼んでいた)の素材を削ったものを入れるようになってきました。そのうち、シリコン業者の方で予め鼻用に加工した材料を売り出すようになり、医師は患者の希望よりやや大きめのその材料を選んでは削って入れるようになり現在に至ります。

●隆鼻術の術式

現在は鼻の穴の中から切開して入れるのが一般的ですが、昔は鼻の穴と穴の間の外鼻を切開して入れていたそうです。鼻の穴の中を切開するようになっても最初の頃は左右両側切開していたそうです(昭和28年初版:鼻の成形外科)。これは鼻先のプロテーゼが片側切開では切開部に寄り易いのを防ぐ意味と言われます。現在では通常片側切開ですが、プロテーゼの鼻尖部から更に鼻の穴と穴の間に更に少しシリコンプロテーゼを付けておくと、その心配はないです。I字型でも正確に剥離し、そっと置けば、ズレはまずないですが、鼻尖部でシリコンの先端を鼻の軟骨に縫い付けておけばズレの心配は全くないです。

●隆鼻術は骨膜の下か上か(骨萎縮?)

顎(あご)場合なら骨膜の下にシリコンプロテーゼを置くと何年かするうちに、骨萎縮が生じ、シリコンプロテーゼが沈んできます。ですから顎では骨膜の上に入れるのが、より良いと言えるのです。 しかし鼻の骨は発生学的に顎の骨と違い(顎の骨は発生学的に鎖骨と同じ)、また鼻の骨は皮質骨だけで海面骨がないため、骨の上にシリコンプロテーゼを置き、ピッタリフィットさせても骨萎縮は臨床的にはしないものです。 ですから通常、医師は骨膜の下に入れていると思いますが、中には顎のプロテーゼと同じく、信念を持って骨膜の上に入れている医師もいるかも知れません。しかし、骨膜の上にプロテーゼを乗せた場合、皮膚の上から触ればグラグラ動く鼻になってしまいます(顎は骨膜上でも動きません)。そういう意味でも骨膜の上にはシリコンプロテーゼは入れたくないのですが、実際に診療をしていると他院術後の患者さんにグラグラを診ることはよくあります。これは手術手技の拙劣さや急いでやってしまって骨膜の下のつもりが上に入ってしまった等ではないかと思っています。 さて骨膜下に入れる場合、専用の骨膜剥離子を使い、ガリガリと音をたてながら骨膜を剥がします。このガリガリですが、実際の音は僅かですが、手術を受けている患者さんにとっては、すごく大きな音に聞こえるものです。それは鼓膜を介さず、骨を伝道して直接内耳に振動が伝わるからです(骨伝導)。時々術直後の患者さんから「骨を削ったのですか?」とまで聞かれることがあるくらいです。

●シリコンプロテーゼの加工法

鼻用の作られたシリコンプロテーゼを患者さんの鼻に合うように削る際は、メスの刃を使う医師が多いようです。ハサミやヤスリを併用する事もあります。この時シリコンの特に裏をヤスリ等で表面がザラザラするように私はしていますが、これが術後のシリコンのズレやぐらつき防止に一役かっています。医師の中には同様の目的でシリコンの左右のヘリの部分にノコギリの刃状の刻みを作ったり、シリコンの正中部に1cm位の間隔をあけてパンチと称する穴あけ器で穴を3つ位あけてそこに組織が入り込む事でシリコンプロテーゼがずれ難くする方法をとる医師(年配が多い)もいます。

●シリコンプロテーゼの隆鼻術の合併症

隆鼻術の写真 プロテーゼ 修正

 一番、留意すべきは、シリコンが厚すぎたり、長すぎたりして皮膚を下から突き上げ、皮膚がだんだん薄くなって、いつかシリコンが皮膚を破って出てくることです。L字、T字に関わらず、皮膚に無理な力をかけているか否かで決まります(写真は長すぎるI字シリコンによる穿孔です)。穿孔をみる場合は鼻尖部でのことがほとんどです。 その他の合併症として大きな問題になるものは細菌感染です。感染をみた場合は、原則はプロテーゼ抜去、洗浄、抗生物質投与です。
 ただ患者様の中には長年入れてきたプロテーゼを抜去して社会生活はできないから、何とかして!と言われる人もおり、上手く行かないのをも覚悟で了承頂き、術中のみプロテーゼ抜去、洗浄、抗生物質投与、再挿入をやったことがありますが、上手く感染が沈静化したこともあります。 

●シリコンプロテーゼが何十年と古くなったら表面に石灰沈着

シリコンプロテーゼの表面に石灰化

 固定シリコンは無害なものと言えますが、異物ですから、挿入後3ヶ月もすれば繊維性被膜で包まれます。その被膜の内側に長い年月をかけて石灰沈着物が生じます。写真は30年以上入れていたものですが、表面にまだらに付着しているのが石灰成分です。
これは通常悪さをしませんが、私の経験上、80歳を過ぎて石灰沈着物が厚みをまして鼻筋小さなコブが出来てきたと訴えてきた方がおられます。

●耳介軟骨だけでの隆鼻材料

耳の軟骨は耳に在った時、自然な形を呈するのであって、左右の耳からチップ(かけら)状の軟骨を集め糸で縫い合わせて隆鼻材料を作っても表面はガタガタしているものです。おまけに軟骨は傷つくと若干の変形を見ますから、術後早期になんとか許せる形状を呈しても、3ヶ月以降でも微妙な変化をしてくるものです。
従って時間をかけて耳介軟骨だけで隆鼻材料を作って入れてみても、既製品のシリコンプロテーゼを簡単に削っていれてみただけの鼻の方が綺麗だったりすることは多いものです。

●ハイブリッド隆鼻材料(ハイブリッド法)

隆鼻術の写真 プロテーゼ 修正

シリコンだけで鼻先を下に伸ばすのは危険ですから、その先端に耳の軟骨を付け(写真上)、尚且つ軟骨と皮膚の間に軟骨膜などの軟部組織を付ける(写真下)手術を私が奉職した大手美容外科では平成9年から「ハイブリッド法」と呼んで時々行ってきました。
  私もその施行者の一人でしたが、L型もしくはJ型プロテーゼの先端に組織をプロテーゼに縫い付ける形で製作加工していました。LやJの脚を付けるのは鼻先から鼻柱のシルエットに段差を作らないためと、鼻翼軟骨内側脚の間に脚を挟み込むことでズレ難い状態を作るためでした。

側頭筋膜での隆鼻材料

側頭筋膜も当然自家組織ですが、隆鼻材料を作る時、耳介軟骨で作ったような表面のガタガタが生じません。異物は絶対イヤという人には、側頭筋膜を巻き寿司みたいに棒状にしたものをシリコンプロテーゼの代わりに入れます。しかし、この筋膜は1年くらい経つと結構薄くなってしまい高さが出せなくなることが問題です。ですから、最近の私は使用するにしてもプロテーゼに巻いて使う位しか用いません。